図版は上からTextura,
Schwabacher, Fraktur−これらは印刷文字、草書体、楽譜の書体が Rotunda
出典:La
lecon de fraktur / Scripsit 1996年
今月の書体は、この2番目の草書体にあたります。フランス語では CURSIVE
GOTHIQUE
キュルシヴ・ゴティックと言います。これは普段使いの書体で、続けて走り書きというのが特徴。普段といっても、昔のことですから、宗教関係の書物ではない公文書や書簡用ということ。崩し書きなのでこの時代の古文書は読みづらいという難点も。
崩して続けて早く書くということから、既存の草書体の影響も受けて、文字によっては同じ字でもその位置により書体が的確に定まってないことが多いのも特徴。
バリエーションというのは、規定の書体ごとのサイズや崩し方などを自由解釈し、これによって書き手の個性を加えることです。今月の作品は草書体の特徴を出すために、同じ文字でも例えばeやsなどは、リズムの流れを生かしながら種類の違なる文字を用いています。
能「松風」は、中納言在原行平の寵愛を受けた松風と村雨姉妹の物語。弟の業平とともに日本史に名を留める、いわばいにしえのイケメンです。(笑)「立ち別れ稲葉の山の峰に生ふるまつとしきかば今帰り来む」の歌は百人一首に含まれていますから御存知の方もあるでしょう。その行平が須磨にしばらくわび住まいをした折に、寵愛を受けたのがこの姉妹。ある秋の月がきれいな晩に、須磨に立寄った僧が、そのさびしい海岸に一本の松と、二人の乙女が汐汲みの桶ふたつに映った月の影を愛でている姿を見かけます。その後、その二人が実は松風・村雨の霊であることが判り、一本の松を行平に見立てて昔を偲んでむせび舞い狂う様子に僧が成仏を祈るというストーリー。作品はその汐汲みの桶に映った月の一節の仏訳。夜の海岸に月の明かりで照らされる松をイメージしてみました。
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